「私さあ、ギンガムチェックのワンピースでお花畑をくるくるまわるのが夢なんだよね」 「ぶしっ」あ、吹いた。


ガードレールに座ってもレモンティーの入った缶のプルタブを上げる。 炭酸水むせるのは辛いだろうなあ、千種くんもむせたりするんだなあ、 と感心しながら尚もげほげほと苦しそうな彼の背中をばしばしと 叩いた。 「え、そんなにおかしい?小さい頃からの憧れなんだけどな」 「…ミスマッチ過ぎ」手の甲で口を拭いながら苦しそうな声で千種がうめいた。 と千種は近所のスーパーでよく会う。学校内で会話を交わす事は滅多にないがこうして 買い物後に主婦の井戸端会議のような事はよくする。いつも言い出すのはだが。 「それであの曲歌いながら。ナウシカの」「…ナウシカ?」「知らない?」「知らない」 こういう歌、とは少しうたって両手を広げた。 「こわくない、こわくない、…知らない?」「知らない」 そっか、帰国子女だもんね、と言っては缶に口をつけた。 じゃあ千種くんはどんな歌なら知ってるの、とが訊いても千種は答えなかった。 「千種くんの歌声って聴いてみたいな」「俺は歌なんか歌わない」「えーケチ、音痴だったりして」 「音痴ではない」「なにそれ矛盾してるよ」けらけらと笑うはじゃあ千種くんの歌にあわせて お花畑をまわるねとおどけてみせた。 「…花畑なんてどこにあるの」 「知らない。でも千種くんも行こうよ。ゴールデンウィークとかにさ。 城島くんとか六道さんも一緒に」 4人が歌いながら花畑をぐるぐると回る光景を想像して喉を通った炭酸水を逆流させそうに なったが、血溜まりの中に立つ3人の姿よりは余程中学生らしくはあると思った。 いつの間にかそういう綺麗なものを悲観する気持ちは薄れた。忘れたのか? 千種はと会話を交わす度にどんどん自分が丸くなっていくのを感じて言い知れない不安が よぎったが、「…生きてたらね」 と小さく吐いた言葉と一緒に ごう、と通りすぎる車の音にかき消された。




「あたらしい季節が来たよ、千種くん」
そう言っては幸せそうな歌詞のついた歌を口ずさんだ。
強い風がふたりの間を通り抜け、春のはじまりを告げる。









って音痴」「うわ!失礼な!」


(春あんまりかんけいない!)
(むせる千種がかきたかっただけ)