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卒業式にあいつの姿はなかった。てっきりツナがいるから隣に座っているかと思ったのに、
ツナの隣には誰も乗せていないパイプ椅子がぽつんと置かれている。逆に目立つ。
式って何でこんなに人を眠くさせるんだろうなあ。
けじめのひとつだとは思うけど感慨に耽るなら全員で校内一周するとかの方がきっとたのしいよ。
教室のひとつひとつに暗号が隠されてて、それを解くと卒業証書の在り処がわかるの。
うわあ楽しそう。にへへへへへへ
「、何て言うかその変な笑顔やめなよ すーごいみんな見てるよ…!」
ツナに耳打ちをされて我に返るとさも自分の事のように恥ずかしがる姿が見えて
にやにやは治まるどころかもうすぐで吹き出しそうになるところを頑張って呑み込んだ。
かわいいなあツナは。もうダメツナなんかじゃないけどこういう所は何も変わらないんだ。
「という訳でツナがすごくかわいい卒業式でした」
「なんで俺に言うんだよ」
「あー、いい風だこと」「無視かよおい」
式が終わって女子どもの泣き合い撮り合い慰め合いが始まると同時に
屋上をこじ開けて避難すると煙をくゆらすこいつがいて、今に至る。ここにいやがったか。
「この景色も見収めですよ獄寺くん」
「何しみじみしてんだよ」
「や、ちょっとね。…そういえば山本がみんなで写真撮ろうぜって言ってたよ」
「あいつと別に撮りたくねーよ」
「ツナも一緒に撮りたいって獄寺探してたよ」
「お前それ早く言えよバカヤロー!」
獄寺は脱兎のごとく走っていき、扉が閉められた。
吸殻なんとかしろタコ頭。
背中を見送った後、扉に向かってため息をついた。
あいつとこの屋上で話す、いや話す事自体最後になるんだろうな。
あたしが屋上に来ると必ずと言っていい程あいつがいて、
最初すげー不良だと思ってたけどばかで、純粋で、不器用で、
いつの間にか屋上に来る理由があいつに変わってたんだよなあ。
「獄寺、あたしはあんたの危なっかしいところもむかつくところもまっすぐなところも
ヘタレなところも全部ひっくるめて好きだったよさようなら!」
「全部聞こえてんだよバカ女!」「ぎゃあ!」
勢いよく扉が開いてあたしの鼻を潰した。
「…ええど、やばぼどたちど所に行っだんじゃだかっだど」
「うるせえ。あ バカ上向くな」
ふたりして柵にもたれて座る。
ティッシュを詰めて鼻頭を押さえる姿が獄寺の見る最後のあたしの姿か。
みっともないので穴があったら詰める前に入りたい、むしろ雲雀さんの前で悪態ついたらもれなく
土に還してくれる筈だ。
かちり、と安物のライターの音がして、煙がひとすじあたしの前髪を
かすめる。
「…なんか知らねーけど、もう少しの横にいなきゃいけねーと思った」
そしたら一人でブツブツ言ってやがるしよく聞いたら俺の悪口みてーだしと続ける彼の
言葉は耳に入らなかった。そういえば、ああああたしさっき、す、すきって、言った?
獄寺を?いやいやいやいやすきとかそんな、だって、ねえ?だって獄寺だよ?
「お前それすげー失礼だぞ果てろ」
また無意識にぶつぶつと声に出ていたらしい。でも謝らない!
「…俺は結構お前と屋上にいる時間好きだったけどよ」
「…いば、なにか」「なんでもねえよ!もうティッシュとれようぜー」
獄寺が反対側に顔をそらしてしまったのでもう表情は見えなくなった。
春は特殊な電波が出てて人を狂わせるらしいよ、獄寺。
卒業生とそれに群がる後輩でごった返している校庭を見下ろしてぽつりと呟いてみた。
「…何が言いてえんだよ」
「ツナの方がよっぽどあたしよりいい人だよ」
「たりめーだろ10代目よりいい方なんていねえ!」
「じゃあツナと付き合いなよ」
「なんでそうなるんだよ」
「私を愛したあなたは悪くないわ、ただ私が罪深い女なだけ…!」
「愛してねーしお前俺の話聞いてたんじゃねーか!つーかそういう好きじゃねーよライクだライク!」
「あたしだってライク返ししてやるわよ卒業おめでとう元気でね!」
「ふざけんなとはこれで終わる気ねーよ!」
煙吹きかけんな目に染みる!
(涙が出るのはそのせいだ!)
「獄寺」
「…なんだよ」
「春休みさ、あったかい日続くじゃん」
「ああ」
「もしかしたらツチノコ、冬眠からさめて出てきてるかもしれないよ」
「!」
そうだ。そうだよ。私達はこれで終わらない。
計画を立てよう。ツチノコ、見つけに行こう。一緒に。
そして世界はゆっくりと踊り始める!
「そういえば結局と同じ高校に行くって前言ったよな俺」
「言ってねえよ早く言えよそういう大事な事 あたしのセンチメンタル返せ」
終わりじゃなくて始まりじゃないか、バカヤロー
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