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内藤がいなくなった。それはそれは突然に、私の前から姿を消した。
最後に会ったのは、いつだっけ。並中を卒業して、それからふらふらとたまに私の前に
現れては彼女 の ようなものを見せびらかしては去っていったのだけ覚えている。
「!久しぶりじゃーん!あ、こいつオレの彼女ね!」ピースピース、とおどけては
彼女らしきものを抱き寄せて、それはそれは、笑った。笑った?
「羨ましいだろー!?も早く彼氏作れよ!」余計なお世話だ。
私の深いところでじくじくと膿んでいる傷も知らずに。
内藤の生まれた日に、シャイム・スーティンが死んだ。
私は彼の描く世界が好きだった。それを内藤に教えると、あいつは眉を寄せて、
いやオレゲージュツとかわかんないのよ!と
悪びれもせず笑い飛ばした。笑い飛ばしたのだ。
でもはもっとハッピーなのが似合うんだよねー、
という言葉が耳にずっと残っている。
あんたの見た目とか破天荒な性格とか彼女の方がよっぽど芸術的だ、とつられて笑った、ふりをした。
でも、一人でいる時のあいつの表情はずっと何かを考えている顔をしていた。
たまたま通りかかった川の橋の影に座り込んで、じっと口元に組んだ指をあてたまま、
どこか遠くを見ていた。
いつも絶対に見せない顔とどこか胸をざわつかせる雰囲気に声をかけるのをためらっていると、
内藤が不意にこっちを向いて、夕日に照らされていつも以上に赤く染まった内藤は、
それはそれはいつものように眩しい笑顔で私に手を振った。
筈なのだけれど、私はあいつの笑った顔を思い出そうとしても、もう思い出せなくなっていた。
むかつく程見てきたあいつの笑顔なのに、
そこだけぽっかりと抜け落ちたように、どこかへ行ってしまったのだ。
思えばそれが、最後に見たあいつの顔だった のに。
久しぶりに川を通りかかったので橋の上からそれを覗き込んだ。
水面にぼんやりとうつった私の顔は歪んでスーティンの絵画のようだった。
(今の私にそれはそれはお似合いじゃねーか、馬鹿ロンシャン)
あいつの髪みたいに赤い花をぐしゃりと握って空に投げた。
散り落ちる花弁が歪んだ私の顔を更に乱して、やがて見えなくなった。
あんたがいなくなってから幸福な日々なんてどこにもないよ、内藤。
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