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ああ、この男にはどうやっても抗えないのだ。
額がどくどくと脈を打つ感覚がどれほど自分は非力かという事を思い知らされている気がして
唇を強く噛み締めた。目の前に座る男が笑っている。様に見えるがそれはただ口角を上げた顔、
それだけの事だ。「…あんたには、従わない」「おや、また額に傷を増やしたいんですか、パー子」
気安く名前を呼ぶな。そう言いかけたがわき腹に重い痛みが走って私の口からは言葉の代わりに
不自然な呼吸音と血混じりの唾液が出た。
地面にうずくまりながらぼんやりと最期を想像したがすぐに振り払った。どうせ死んでもその先には
この男が立っているに違いない。
「パー子、」髪を強く掴まれ上を向かされる。地面に打ちつけられた額から流れ出る血が右目に
入って視界が奪われた。「あまり僕を困らせないで下さい」
黒曜征服だとか、並中狩りだとか、この男は何を考えているのかわからないが気がふれているのは
確かだ。でも結局すべてこの男の思い通りになってしまうのだと思うと逆に滑稽に思えてきて
無意識ににやりとしていたらしい。と気付いたのは男の手によって地面に口付けた直後だった。
もうこの男は目的と関係なく私を痛め付ける事を楽しんでいるんじゃないだろうか。
額から唇から血を流す私の姿はそんなに面白いのか。歯が折れなかったのは唯一の救いだ。
直前にした事が嘘みたいに優しく男が私を抱き起こした。
パー子、パー子、男はうわごとの様に私の名を繰り返す。
「君はもう僕から逃げられない」私の唇から流れる血を舐めとった後、
男の口はそう動いた。男の右目を掠れる視界でとらえてから、今の自分のそれも目を開けたら
同じ色をしているのだろうと考えてゆっくりと左目を閉じた。
(目を閉じる瞬間、君は少し笑っ た?)
インカネーション或いは耽溺
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